お墓参りの思い出

私が子供の頃のことです。

お墓参りの思い出

私が子供の頃のことです

私が子供の頃のことです。
春分の日や秋分の日など、父はよくお墓参りに行っていました。
私は当時、よくついて行きました。
私にはお目当てがあったのです。
それは、人形焼きです。

私の実家のお墓は巣鴨。墓のあるお寺の近くに、当時とても美味しい人形焼きを売っているお店があったのです。
私は墓参りはそっちのけで、そのお店に行くのが何よりの楽しみでした。
その人形焼きはものすごく美味しくて、店頭でもよく買ってもらったものです。
父もその人形焼きが好きでした。

あれから何十年と時間が過ぎ、父が入院しました。
末期癌で余命4カ月。日に日に食欲が落ちて、ほとんど食べ物を受け付けなくなっていきました。
そんな時、父が病室で一言言ったのです。
「あの人形焼きが食べたい」と。巣鴨の人形焼きのことです。
すぐに私は調べましたが、もう巣鴨にその店はありませんでした。

しかし、根気よくネットで探していたら発見したのです。
その店は重盛永信堂でした。
巣鴨店は閉店しましたが、人形町の本店はまだ健在ということ。すぐに私は買いに行きました。
そして病室へ。父は「懐かしい。そうだよ、この包み紙。お前とよく食べた、あの人形焼きだよ」と喜んでくれました。

しかし、食べられたのはほんの一口だけでした。
「ごめんな。これ以上食べれないんだ」それでも「ありがとな」と言ってくれました。

それから、父はほとんど固形物の食事を取れなくなり、点滴に。そして、この世を去りました。
ろくに親孝行しなかった私の、最後の親孝行になった思い出です。

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